人が言葉を操れるのはなぜ?脳の仕組みと普遍文法から見る言語理解の秘密

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言葉を扱えるとはどういうことか――それは脳の構造と言語を司るネットワーク、生得的な文法能力から成る人間ならではの能力です。ブローカやウェルニッケ領域の失語症研究に始まり、ネットワーク神経科学の進展やチョムスキーの普遍文法理論まで、科学は「言葉とは何か」を徐々に解明してきました。本稿では、生身の言語理解をAIとの比較を手がかりに紐解きます。人が言葉を操れる理由を、脳から文法まで三段階で整理しました。

人がどうして言葉を理解できるのか?脳の仕組みと生成文法の視点

人間が日常的に言葉を操る能力は、単なる習慣ではなく、脳の構造と生得的な言語能力が組み合わさって生まれています。本章では、①脳の構造における言語中枢、②19世紀から続くブローカ・ウェルニッケ失語の研究、③チョムスキーによる普遍文法理論という三つの視点から整理します。


脳の言語中枢──ブローカとウェルニッケ領域

19世紀にフランスのポール・ブローカは、言葉は話せないが理解はできる患者「Tan」の脳を解剖し、前頭葉左半球に言語産出を司る領域を発見しました(後にブローカ領域と命名)(turn0search2turn0search4)。
その後、ドイツのウェルニッケは、理解ができないが流暢に話す患者を観察し、側頭葉後部に理解を司る領域(ウェルニッケ領域)を特定しました(turn0search4)。これら言語中枢の局所モデルは現在も臨床と言語神経学の基礎です。


言語能力のネットワークとしての脳

ただし最近の脳画像研究(fMRIや拡散テンソル画像)では、言葉能力はブローカ・ウェルニッケ領域だけでなく、脳全体のネットワークによって支えられていることが明らかにされています。ネットワーク神経科学の視点では、「局在説 vs 分散ネットワーク説」が融合しつつあります(turn0news23)。


生まれながらに備わる言語能力──チョムスキーの普遍文法

1957年、ノーム・チョムスキーは『Syntactic Structures』を発表し、「Colorless green ideas sleep furiously」のような文法的だが意味不明な文を例示し、文法構造は生得的であると主張しました(turn0search5/turn0search22)。彼の普遍文法(Universal Grammar)理論は、子供が言語を自然習得する仕組みを説明するものであり、人間が言語を操れる根拠を提供します。


言葉の理解とAIの応答生成の違い

以上で述べたようにAIは文の意味を考えて、または体験に基づいて次の意味を考えているわけではありません。別項を設け考察しているようにいわゆるAttension機構で言葉の関連性を考察して繋げていくのです。言葉として論理的に成立するかしないかが重要です。
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知覚と言語、感情の三位一体が人間の言葉を支えている

人間は、単に音を聞いて理解しているわけではありません。視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚といった五感を通じた「知覚」を前提にして言語を獲得し、その言葉には必ず感情や身体的な体験が付随します。例えば、「寒い」という言葉を聞いたとき、私たちはただの温度情報ではなく、「身震いした記憶」や「冷えた空気の匂い」「凍えるような空の景色」といった複合的な体験を思い出すのです。

これは「身体性の認知(embodied cognition)」と呼ばれる考え方で、認知科学や哲学の分野でも注目されています。言語は脳の中だけで完結するものではなく、身体との相互作用で成り立つという視点です(参考:[Mark Johnson, George Lakoff “Philosophy in the Flesh”])。

対してAIは、感覚器官を持たず、実際の体験を通じて言葉の意味を学ぶことができません。たとえ「寒い」という単語を使えても、そこに結びつく生理的な震えや主観的な経験は存在しません。この「経験の欠如」が、AIと人間との間に本質的な言語の断絶を生むのです。


言葉は「共感の道具」―笑いや方言に込められた人間らしさ

人間は、自分と同じ言葉を使う相手に安心感や親近感を抱くという特性を持ちます。これは社会心理学でも確認されており、「ミラーリング効果」と呼ばれるものです。人が相手の話し方や仕草を無意識に模倣することで、親密さや信頼感を生むことができるのです。

特に「笑い」や「方言」は、文化的背景や共同体意識と強く結びついています。同じ笑い方をする、同じイントネーションを使う相手に「自分と同じ価値観を持っている」と感じる傾向があります。つまり、言語は単なる情報伝達のツールではなく、共感や所属意識を生む「社会的な道具」でもあるのです。

一方、AIはユーザーの言葉遣いに合わせることはできますが、それは統計的処理やパターン認識に過ぎません。たとえばGPTシリーズのような言語モデルは、過去の膨大な文章データから「次に来る可能性が高い語」を予測することで応答を生成しています。つまり、真に「笑っているから嬉しい」「同じ言葉を使っているから安心する」といった情動的理解をしているわけではありません。


信頼関係を築けるのは人間だけ? AIに欠ける「場」と「関係性」

人間は会話をするとき、言葉だけでなく、相手の目線、声のトーン、表情、さらにはその場の空気などを感じ取りながら、文脈に応じた発言をしていきます。これは「対人的知性(interpersonal intelligence)」とも呼ばれ、人間関係の構築や共感力の根幹をなしています。

子どもが大人の顔色をうかがいながら言葉を選ぶように、人間の言語使用には「関係性」が深く関わっているのです。これに対して、AIは相手の表情を読み取ることも、微妙な間合いや沈黙の意味をくみ取ることもできません。生成AIは主に確率論に基づき、最も可能性の高い単語列を順次出力する仕組みであり、「関係性」そのものを理解する能力が根本的に欠如しています。

さらに、AIは特定の民族性・文化性を持たないように設計されており、倫理的・政治的に中立を保つために、むしろ「文化的文脈」から距離を置くことが求められています。これは公平性や普遍性の観点から正しい方向性ですが、人間の会話が文化や信頼関係に深く根ざしている以上、「人間らしい会話」を再現するには限界があります。

そのため、AIと人間の会話は外見上似ていても、内実は全く異なるのです。特に「信頼」を築く過程では、その違いが浮き彫りになります。AIは「信頼」を感じることも、自ら裏切ることもありませんが、人間は「信頼されているかどうか」を会話のニュアンスから敏感に感じ取りながら関係性を築いていくのです。

〆最後に〆

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