ChatGPTを擁するOpenAIや、欧州発の俊英Mistral AIが話題を集める中、カナダのCohere(コヒーア)は静かに、しかし確実に生成AI市場で存在感を高めています。独自開発の「CommandR+」は、検索拡張生成(RAG)に強みを持ち、企業ニーズに特化する戦略で差別化を図ります。クラウド大手とも距離を保ち、地に足のついた成長を見せるその姿勢は、日本企業との協業にも波及し始めています。
コヒーアとは何者か──論文発の実力派スタートアップ
Cohereは2019年にカナダ・トロントで設立された生成AIスタートアップ。CEOのエイダン・ゴメス氏は、Google Brain時代にあの有名な「Attention is All You Need」論文(2017年)の共著者として名を馳せた人物です。この論文はトランスフォーマー(Transformer)という画期的な機械学習アーキテクチャを提示し、後のChatGPTやClaude、Geminiといった生成AIの基礎技術となりました。
同社の共同創業者ニック・フロスト氏もまた、Googleの機械学習チーム出身。研究力に裏打ちされた体制が、Cohereの技術的信頼性を支えています。
「CommandR+」の技術的差別化──RAGとハルシネーション対策
2024年4月に発表されたCohereの主力大規模言語モデル「CommandR+」は、検索拡張生成(RAG: Retrieval-Augmented Generation)に特化している。これは、外部データベースと連携することで、AIが知識の限界に直面した際にも正確な回答が可能になる技術である。
このアプローチにより、生成AIがしばしば問題視される「ハルシネーション(幻覚)」──事実に反する情報を自信満々に生成してしまう現象──を大幅に抑制できるとされている。Cohereの技術は単なる対話生成にとどまらず、信頼性が重視される企業利用において力を発揮します。
B2B特化戦略──「消費者向けはやらない」という明確な意思表示
Cohereが他社と一線を画す最大の戦略は、「企業向け(B2B)に特化」している点だ。共同創業者のニック・フロスト氏は「生成AIの価値は、消費者向けの利便性より、企業の課題解決にある」と明言しており、月額課金のようなB2Cモデルには関心がありません。
実際、OpenAIのChatGPTが個人向けに無料・有料サービスを展開する一方で、コヒーアは法人顧客への提供に徹している。無料ユーザーが多いChatGPTは収益性に課題を抱えており、コストの多くをマイクロソフトなどのパートナーに依存している点も見逃せません。
クラウド大手と等距離のパートナー戦略──中立性が信頼を生む
興味深いのは、CohereがAmazon、Google、Microsoft、Oracleといったクラウド大手と“等距離”の関係を保っている点です。他の新興企業が特定クラウド企業(例えばMistral AIはMicrosoft寄り)に依存する傾向が強い中、Cohereはあくまで中立的立場を維持。複数のクラウド基盤上でサービス提供を行っており、企業顧客にとって“囲い込みのない安心感”を提供しています。
日本市場への波及──富士通との提携が示す意義
2024年7月、Cohereは富士通との資本提携を発表し、5億ドルの資金調達を実現。既存株主であるNVIDIAに加えて、AMDや富士通が参加したことは、同社の技術力と将来性への信任の証でもあります。
富士通はこの技術を、日本企業のデジタル変革(DX)を支援する中核技術として導入予定であり、CommandR+が国内の業務AIインフラの一部となる可能性も出てきました。
結語:目立たないけど実力派──「企業のためのAI」を貫くCohereの強さ
華々しい話題性はないが、Cohereの戦略は一貫して堅実だ。研究開発力、誤情報対策、B2B特化、クラウド中立──これらの要素を武器に、Cohereは静かに、しかし確実に生成AIの覇権争いに食い込んでいる。日本企業にとっても、オープンAIやGoogle一辺倒ではない、新たな選択肢としての価値が高まりつつあるのです。
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