五感と脳活動から「心を理解するAI」へ ― 総務省構想と未来社会への示唆

New Challenge

【本記事は2025年10月12日の日経新聞を起点に議論します】

総務省は、触覚・嗅覚・味覚などを含む「五感」と脳活動の関係を体系的に解析し、2035年頃を目途に「人の感情を理解できるAI」の実現を目指す研究支援を検討しています。国立情報通信技術研究機構(NICT)と大阪大学を中心に、五感データと脳反応を対応づける基盤研究を進める方針であり、実生活に近い環境下でのVR・外骨格ロボットを活用した実験も視野に入れています。本稿では、この構想の概要、国際的な感情解析AI市場の動向、そして「心を理解するAI」が社会や倫理に与える影響を整理します。あわせて、今後の技術開発がどのように私たちの幸福やウェルビーイングに寄与し得るかを考察します。

五感と脳活動を結ぶ新しい研究構想

五感の脳データ化に向けた取り組み

総務省は、2026年から国立情報通信技術研究機構(NICT)および大阪大学の共同研究を支援する方針を示しています。この研究では、嗅覚や触覚、味覚といった「身体的な感覚」を再現・記録し、脳活動との対応関係を探ることが中心テーマとされています(日本経済新聞, 2025)。
VRゴーグルや外骨格ロボットグローブなどを用いて、実際の生活環境に近い刺激条件を設定し、被験者の脳波・血流・神経反応を多面的に解析する構想が検討されています。

データベース構築と個人情報保護

この構想では、五感刺激に対する脳反応を匿名化したデータとして蓄積し、研究機関や企業にも提供できるよう検討が進められています。ただし、個人情報や神経データは極めてセンシティブな性質を持つため、匿名化や倫理審査の枠組みが不可欠です。
EUでは同様の感情認識技術に対して法規制の議論が進んでおり、日本でも透明性の高いガイドライン策定が求められます。

研究の背景にある長期的展望

NICTは「脳情報通信」を2030年代に向けた重点研究領域の一つとして位置づけています。人間の感情や意図を理解し、共感的に応答できるインターフェース技術を目指すものであり、これは従来の「音声認識AI」や「画像分類AI」とは異なる、心理的・情動的な側面に踏み込む試みと言えます。

五感と脳活動を統合する研究は、単なる技術開発ではなく「心を理解する科学」への挑戦として進められています。 倫理・法制度と研究技術の両輪で進めることが不可欠です。

感情解析AIの市場動向と国際的な潮流

世界市場の拡大

インドの調査会社Stratistics MRCによると、表情や声のデータから感情を解析するAIの世界市場は2032年に149億ドル(約2.2兆円)に達すると予測されています(Stratistics MRC, 2024)。
特に医療・教育・カスタマーサポートなど、人間の心理状態を理解することが求められる分野で需要が拡大しています。

分野 主な用途 市場拡大の背景
ヘルスケア うつ病・ストレス検知 精神健康の社会的関心の高まり
教育 学習意欲・集中度の測定 個別最適化学習の推進
ビジネス 顧客満足度・購買行動分析 顧客体験(CX)向上ニーズ

欧州の規制と倫理的課題

欧州連合(EU)は2024年にAI法(AI Act)を可決し、職場や教育現場での感情解析を「高リスク用途」として禁止する方向を明確にしています。感情の自動認識が個人の自由意思を侵害する可能性があるためであり、倫理的懸念が強く意識されています。
日本ではまだ明確な法規制はありませんが、研究推進と同時に倫理基盤の整備が急務となっています。

日本における制度設計の課題

日本のAI戦略会議や情報法研究者の間でも、「生体情報を用いたAI分析」に関する法的枠組みの議論が始まっています。感情や脳活動に基づくデータは「最も個人的な情報」であるため、データ利用の範囲や目的外使用の禁止が明確化される必要があります。
これらの議論は今後、AI基本法や個人情報保護法改正にも関わっていく可能性があります。

感情解析AIは急速に市場が拡大しており、倫理・法規制の整備が国際的課題となっています。 日本もこの潮流の中で、バランスの取れた制度設計が求められています。

脳情報AIがもたらす社会的意義と展望

人に寄り添うインターフェース技術

脳活動と五感情報を組み合わせたAIは、従来の「入力・出力中心の情報技術」から、「人間の内面理解を含む技術」へと転換する可能性を持っています。
NICTが掲げる「人に寄り添う技術」とは、ユーザーの感情や状態に応じて自然に支援する、共感的インターフェースの実現を意味しています。

医療・福祉分野への応用可能性

感情認識AIや脳活動解析技術は、発達障害や認知症のケア、うつ病の早期発見といった分野での応用が期待されています。感情の変化をモニタリングすることで、医師が診断の補助情報を得たり、個人が自分の心身の状態をより深く理解する助けとなることが考えられます。

「幸福の技術」への道

感情や感覚を理解するAIの開発は、単に効率性を高めるためのものではなく、人が幸福に生きるための新しい支援技術としての意義を持ちます。技術が人間の心に寄り添うことで、孤立を減らし、自己理解を促す社会的価値をもたらす可能性があります。

脳活動を基盤とするAIは、「効率化」よりも「共感と幸福」を支える方向で活かされることが期待されます。 科学と倫理の調和が、次世代AIの価値を決定づける鍵となるでしょう。

参考文献・出典(著者・年方式)

日本経済新聞(2025)「総務省、五感データで“心を読むAI”構想」2025年10月9日 朝刊

Stratistics MRC(2024)”Emotion Detection and Recognition Market Forecast 2024–2032″

NICT(2025)「脳情報通信の研究開発構想」公式発表資料

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