日立製作所と米OpenAIは2025年10月2日、都内で基本合意書を交わし、AI向けデータセンターにおける送配電設備や空調・冷却技術で協業することを発表しました。OpenAIが進める大規模インフラ整備(Stargate等)は膨大な電力と冷却能力を必要とし、電力品質の確保や効率的な熱管理はサービスの可用性とコストに直結します。日立は高効率変圧器、配電網技術、データセンター向けの空調・液冷ノウハウ、そしてLumadaなどのデジタル運用技術でこれらの課題に対処する役割を担います。一方OpenAIはサーバやGPUクラスタ、モデル開発力を提供し、双方の強みを持ち寄ることで、より安定かつ持続可能なAIインフラの構築を目指す協業です(出典:日立・報道各社、OpenAI公式)
1:協業の概要と狙い
2025年10月2日、日立製作所とOpenAIが都内で基本合意書を交わし、日立は送配電設備や空調・冷却技術、エネルギー安定化ソリューションを提供することで合意しました。今回の合意は、OpenAIが世界的に進める大規模データセンター整備(Stargate等)に対する電力・冷却面での協力が中心です。Nippon+1
1.1:合意の要点 — 何が決まったか
2025年10月2日、日立製作所と米OpenAIは、東京都内で協業に関する基本合意書を締結したと各社報道が伝えています(出典:Nippon.com 2025年10月2日付、Bloomberg)。合意の主軸は「AI向けデータセンターにおける送配電・空調・冷却のインフラ技術協力」にあり、OpenAIが世界各地で計画する新規データセンター群、特に米国で進行中の Stargate計画 に対して日立の技術を提供する枠組みです。
この合意の特徴は、日立がデータセンター運営に直接関与するのではなく、あくまで電力供給・配電網・冷却インフラといった基盤技術を提供する点にあります。AI開発に不可欠な演算資源(GPUクラスターやストレージ)はOpenAIが準備し、それを支える電力・冷却システムを日立が担当する。いわば 「AIモデルの頭脳」をOpenAIが担い、「血流や呼吸」を日立が支える という関係性が明確化されたといえるでしょう。
協業の背景には、近年の大規模言語モデル(LLM)やマルチモーダルAIの計算負荷が指数関数的に増大していることがあります。最新のGPT-5シリーズやSoraのような生成系モデルは、学習時に数千〜数万枚規模のGPUアクセラレーターを並列稼働させ、莫大な電力消費と発熱を伴います。このため、単なるサーバ配置だけでは不十分であり、 電力の安定供給・効率的な冷却・運用最適化 が不可欠となっているのです。
日立は長年にわたり電力インフラと社会インフラ事業を展開しており、高効率変圧器やスマートグリッド技術、ビル用空調や産業用冷却設備を通じて「高信頼かつ省エネ」という付加価値を提供できます。この知見が、まさにOpenAIの求めるAIインフラ需要と一致したことが今回の合意の背景です。
1.2:双方の期待 — 日立とOpenAIの狙い
日立にとって本協業の狙いは、自社が持つ社会インフラ技術をAI時代の成長分野に適用し、グローバルな存在感を高めることにあります。とりわけ「送配電」と「空調」という事業領域は従来からの強みですが、AIデータセンターの需要急拡大により市場規模が急成長しているため、日立が参入する絶好の機会となります。
一方でOpenAIにとっては、急増するAIインフラ需要を効率的かつ安定的に運用するための協力パートナーが不可欠です。Stargate計画のような数百億ドル規模のインフラ投資を実行するには、単に資金やIT機材だけでなく、 電力品質を守りながら省エネ化を実現する技術 が求められます。OpenAIは研究開発に注力する組織であるため、こうしたインフラ領域を自社で担うのは現実的ではなく、信頼できるパートナーが必要でした。
両社の狙いは異なるものの、互いの強みを補完する形で利益が一致しています。日立はAI分野でのプレゼンスを確保し、OpenAIはインフラ面での不確実性を軽減できる。この構図が、今回の基本合意の大きな意義といえるでしょう。
1.3:地理的な展開イメージ
今回の合意は単なる日本国内案件ではなく、グローバルに展開するOpenAIのデータセンター群を視野に入れています。OpenAIは米国においてStargate計画を進めているほか、欧州(英国など)や中東でも新規データセンターの設立を計画中と報じられています(出典:Reuters)。
日立はこれら地域のデータセンターに直接出資するわけではありませんが、送配電・空調インフラを提供する形で「裏方のパートナー」として関与します。特に中東では高温環境に対応した冷却システム、欧州では再生可能エネルギーとの連携、米国では大規模な配電安定化が重要視されており、各地域の課題に合わせて日立の技術が活かされる可能性があります。
このように地理的な展開においても、日立の役割は「グローバルなAIインフラ需要を支える不可欠な部品」として機能する見通しです。
【参考図版イメージ:送配電と冷却の概念図(テキスト版)】
[発電所/再エネ] → [変圧器・送電網(日立)] → [データセンター]
↓
[冷却/空調(日立)]
↓
[GPUサーバ群(OpenAI)]
このように「電力供給・冷却=日立」「演算資源=OpenAI」という役割分担が視覚的にも明確です。
2:日立のインフラ技術(詳細解説)
日立は高効率変圧器や送配電システム、電力品質の維持技術を持ち、突発的な負荷変動が大きいAIデータセンターでも安定した電力供給を実現する設計・運用ノウハウを保有しています。これにより電力損失低減と信頼性向上が期待されます。Nippon
2.1:高効率変圧器と“CompactCool”技術で損失低減
日立(正確には Hitachi Energy)は、変圧器分野で CompactCool 技術というハイブリッド冷却方式を持ち、送電系インフラの効率化に寄与する可能性があります(出典:Transformers Magazine 紹介資料)transformers-magazine.com。この技術では、従来の乾式変圧器構造に液体冷却の要素を組み合わせ、巻線部分の発熱を効率よく除去するよう設計されており、これにより変圧器損失を抑制し、電力変換時の無駄な熱排出を削減できます。
具体的には、変圧器の内部コイル近傍に流動性のある冷却液を導入し、その熱を外部の熱交換器に導く方式です。これにより、従来型乾式変圧器よりも 15~50%程度の小型化・高密度化 が可能とされ、また、損失熱を効率よく除去できるため、PUE(Power Usage Effectiveness:電力利用効率)にも好影響を与え得るとされていますtransformers-magazine.com+1。
AIデータセンターにおいては、電力変換・配電時のロスが蓄積すると膨大な電力消費につながるため、変圧器そのものの効率化はインフラコスト低減・省エネ化に直結します。特に大容量変圧器を複数用いる環境では、このような高効率化技術は非常に価値が高いでしょう。
概念図風に示すと、以下のようになります:
この構成により、送電から各ラックへの電力供給までの道程で失われるエネルギーを最小化することが可能となります。
2.2:水冷・純水冷却システムで冷却効率を強化
送配電インフラだけでなく、データセンター冷却も日立の強み領域となり得ます。Hitachi Energy は産業・電力機器向けに 純水冷却システム を提供しており、特に高電圧・高信号部品の冷却用途で実績があります(出典:Hitachi Energy Cooling Systems ページ)hitachienergy.com+1。
この純水冷却技術は、水の導電性を極めて低く制御し、冷却経路に使用することで電気的安全性を確保しつつ効率的な熱除去を実現するものです。電力変換装置(例えばインバータ、コンバータ、静的無効電力補償装置 SVC など)では、発熱が激しい部位がありますが、これを水回路で冷却することで、空気冷却方式に比べて冷却効率を大幅に引き上げられる可能性があります。Hitachi Energy の冷却システムは、HVDC や SVC 設備に対して過半数の導入実績を持つともしています。hitachienergy.com
データセンター用途では、サーバ本体や GPU モジュール、電源変換ユニット(PSU)などから発生する熱を冷却水回路で効率よく回収/放散し、建物全体の空調負荷を抑える手法と組み合わせることで、PUE低下に大きく寄与可能です。
概念図風記述:
ここで、熱交換効率や配管設計、流量制御がクリティカルになりますが、日立はこれら設計ノウハウを持っており、カスタム設計も可能とされています。
2.3:予兆保守・デジタル運用(Lumada等での最適化)
インフラ提供だけでなく、それを使いこなす 運用面での最適化 が協業の鍵となります。日立は「Lumada」プラットフォームをはじめ、センサーとデータ分析を組み合わせた予兆保守や性能最適化技術を持っています。これをデータセンター運用に適用すれば、設備劣化や異常兆候を早期に察知して補修・調整を行うことで、稼働停止リスクを抑えつつ、運用コストを抑制できます。
例えば、変圧器の発熱状況、冷却水流量、温度分布、振動センサーなどをモニタリングし、異常傾向が見える段階でアラートを出す仕組みを構築できます。このような 「見える化+予防的対応」 によって、設備故障や性能低下を未然防止でき、長期稼働の信頼性を高められます。
概念図風記述:
このような仕組みと、日立が提供する送電・冷却インフラの組み合わせによって、単なる設備供給を超えた “インフラの知能化” が可能となるのです。
3:OpenAIのインフラ需要と研究動向が示す必然性
OpenAIが公表しているStargateは大規模なAIインフラ投資計画で、今後数年で数百億〜数千億ドル規模の設備投資を見込むプロジェクトです。大規模GPU/アクセラレータを支える電力と冷却インフラが不可欠です。OpenAI+1
3.1:大規模言語モデルと「スターゲート計画」
OpenAIは現在、ChatGPTやGPT-4以降の大規模言語モデル(LLM)を商用化・進化させるため、世界規模でデータセンターインフラを拡張しようとしています。その象徴が報じられている「Stargate(スターゲート)計画」で、マイクロソフトと協力しながら4年で約70億ドル規模を投資し、次世代AI向けの巨大データセンター群を建設する構想です(出典:The Information, 2024)。
この背景には、次世代のAIモデルが桁違いの計算資源を必要とする現実があります。GPT-4でも数万GPU規模が必要とされましたが、次の世代モデルでは数十万~百万GPU級が見込まれています。これに対応するには、従来型のデータセンター設計では不十分であり、超高密度・高効率な電力供給網と冷却技術が必須となります。
図3.1(概念図:Stargate計画の位置づけ)
このように、OpenAIの研究ロードマップは単にアルゴリズムの進歩だけではなく、インフラ技術の高度化と強く結びついています。日立のような企業が持つ送配電・冷却ノウハウは、この計画を支える「縁の下の力持ち」となり得るのです。
3.2:電力需要の爆発と再生可能エネルギーとの接続
AIデータセンターの拡張に伴い、最大の課題となっているのが「電力需要」です。米国エネルギー情報局(EIA)の試算によれば、AI向けデータセンターの電力需要は2030年までに現在の数倍規模に膨らむ可能性があるとされています(出典:IEA, 2023 Data Centres and AI Report)。
OpenAIのような先端企業にとって、単に電力を確保するだけでなく、安定供給+低炭素化が両立できることが必須条件です。ここで必要となるのが、再生可能エネルギー(太陽光・風力など)の電力を大規模に取り込みながら、変動を補うための送配電制御システムです。
日立はこの点でも強みを持っています。Hitachi EnergyはHVDC(高電圧直流送電)技術において世界有数のシェアを持ち、長距離にわたる大電力送電や、再エネの変動抑制に不可欠なインフラを提供可能です。この技術は特に風力発電の洋上基地や遠隔地太陽光発電からの送電に威力を発揮し、データセンターの安定運用を後押しします。
図3.2(電力供給の概念図)
このような再エネ連系と高効率変圧・配電システムの組み合わせにより、OpenAIは大量の電力需要を賄いつつ、環境負荷の低減を図ることができるのです。
3.3:冷却効率とAI研究のスピード
AI研究の進展は、冷却効率とも直結しています。GPUサーバ群は数十kW単位の熱を1ラックで発生させるため、従来の空冷方式では限界が近づいています。NVIDIAの最新GPU(H100など)も水冷・液冷を前提とした設計が増えており、大規模学習では冷却システムがボトルネックになりつつあります。
OpenAIが求めるのは、高密度GPUクラスターを安定稼働させられる冷却基盤です。ここで日立の純水冷却技術や高効率空調システムが役立ちます。特に液冷プレートやラック背面冷却(rear door heat exchanger)といった技術を組み合わせることで、サーバ密度を上げつつ安定動作を維持できます。
さらに重要なのは、冷却効率が研究スピードに直結する点です。AIモデルの学習では、冷却不足によるサーマルスロットリング(性能抑制)が起これば、学習時間が数日単位で延びるリスクがあります。逆に効率的な冷却インフラがあれば、GPUをフルに稼働させ、より短期間で次世代LLMをトレーニングできるのです。
図3.3(AI研究と冷却効率の関係)
つまり、冷却技術は「研究のボトルネック解消装置」としても位置づけられます。OpenAIが日立のような企業との協力を模索する背景には、このような直接的な研究スピードへの寄与もあるのです。
小まとめ
OpenAIが直面しているインフラ課題を「大規模モデル開発」「電力需要と再エネ連系」「冷却効率と研究スピード」の三軸から解説しました。いずれも単なる設備問題にとどまらず、AI研究開発の速度・持続可能性に直結する要素であり、日立の送配電・冷却技術が支える余地は大きいといえます。
日立とOpenAIの「主な役割」一覧(表)
項目 | 日立の提供(想定) | OpenAIの提供(想定) |
---|---|---|
送配電設備 | 高効率変圧器、配電システム、電力品質管理。 | — |
冷却・空調 | データセンター向け空調/液冷ソリューション、熱回収設計。 | — |
運用デジタル化 | Lumada等による予兆保守・最適運転。 | — |
サーバ/ストレージ等 | — | サーバ機器、GPUクラスタ、ストレージ設備の整備・提供。 |
データセンター設営 | 技術協力(送配電、冷却)で支援 | サイト選定・資金投入・設備導入(Stargate等) |
(上表は報道からの合意内容と各社の既存技術・事業領域を整理した想定で、詳細契約は今後詰める段階です。出典参照。)Nippon+1