車載ECUにおけるGPUとFPGAの役割の違い【性能・消費電力・レイテンシ比較と採用車種事例】

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自動車が「ソフトウェア定義車(SDV:Software Defined Vehicle)」へと移行し、自動運転・高度運転支援・車内インフォテインメントが統合されるなか、ECU(Electronic Control Unit)の計算処理は飛躍的に複雑さを増しています。その中心にあるのが、GPUFPGA という二つの計算アーキテクチャです。両者はどちらも並列処理性能を持つため、一見すると代替可能に思えますが、実際には「得意とする役割」「消費電力」「レイテンシ(処理の遅れ)」「開発生産性」「耐環境性」において本質的な差が存在します。本稿では、車載における採用事例とともに、GPUとFPGAの根本的な違いを比較し、自動車メーカーがどの領域にどちらのチップを採用しているのかを整理します。その上で、自律運転時代における車載コンピューティングの姿を展望します。


1:GPUとFPGAの基本的な違い

GPUとFPGAはともに並列処理が可能な計算装置ですが、アーキテクチャの思想が根本的に異なります。GPU(Graphics Processing Unit)は、数千単位の演算ユニットを持ち、同じ計算を大量のデータに一括適用する処理を得意とします。これにより、画像処理やAI推論のような「行列演算中心」の処理に強みを発揮します。一方、FPGA(Field Programmable Gate Array)は、内部の回路を用途に応じて再設計できるハードウェアであり、アルゴリズムそのものを回路化してしまうことで無駄を排除し、遅延(レイテンシ)を極限まで低減できる点が特徴です。このため、車載環境のようにリアルタイム性・低消費電力・信頼性が要求される領域では、GPUよりFPGAが適用される場合が多くなります。


1 GPUの特徴

  • SIMD型(同時に同じ処理を行う)でスループットが高い

  • AI推論・画像認識に最適

  • 一方で消費電力・発熱が大きい

2 FPGAの特徴

  • 回路が自由に再構成可能

  • レイテンシが低くリアルタイム制御に向く

  • 開発にはHDLなど専門知識が必要

3 比較表

項目GPU(例:NVIDIA AGX Orin)FPGA(例:Xilinx Zynq UltraScale+)
消費電力最大 60W最大 10W
レイテンシ数十ms(30〜50ms)数ms未満(1〜5ms)
発熱量200〜300 BTU/h30〜50 BTU/h
用途AI推論 / 画像認識制御 / 通信 / センサー処理

2:車載ECUにおける採用状況

現在の車載ECUでは、制御系・通信系・認識系の負荷が増大しており、単一のCPUで処理することは現実的ではありません。このため、用途に応じてGPUとFPGAが役割分担をする構成が広がっています。特にFPGAは低消費電力と高信頼性が評価され、ドライブバイワイヤ、電動パワステ、バッテリー制御、車載イーサネットのゲートウェイなど、多くのECUに実装されています。一方、GPUはAI推論による物体検出、センサーフュージョン、路面状況の認識など「環境認知」領域で採用が進んでいます。


1 FPGAが採用されるECU例

  • 電動パワステ制御

  • モーター制御

  • 車載ネットワークゲートウェイ

2 GPUが採用されるECU例

  • 自動運転統合ECU

  • カメラ認識処理ユニット

  • 車載クラスタディスプレイ処理

3 GPU搭載例(具体的車種)

メーカー採用SoC / GPU用途
トヨタNVIDIA DRIVE Orin自動運転ECU
メルセデス・ベンツDRIVE Xavier / Thorセンサー認識
VolvoDRIVE PXADAS統合制御
テスラ自社AIチップ(Dojo系統)FSD(自動運転)

3:なぜ使い分けられるのか(判断基準)

GPUとFPGAの選択は「性能が高い方を使う」という単純な話ではありません。車載環境では、瞬間的な遅れが事故に直結する可能性があるため、レイテンシ(処理の遅延)が極めて重要な指標となります。高速な行列計算が必要な認識処理ではGPUが強みを持ちますが、リアルタイムに結果反映が必要な制御領域ではFPGAが優位です。また、車載は熱・振動・長寿命が求められるため、発熱制御と耐久性も選択の要点となります。今後、統合ECU化が進むと、GPUとFPGAは競合するのではなく、共存し補完し合う関係になると考えられます。


1 レイテンシを重視する場合

→ FPGA

2 AI推論・環境認識を重視する場合

→ GPU

3 SDV時代の展望

  • 両者を一体化したSoCの研究が進む

  • 「センサー → FPGA → GPU → ECU」という統合処理パイプラインが一般化する可能性


✅ 結語

自動車は今、機械から情報システムへと転換しつつあります。環境認識、判断、制御という連続する計算プロセスの中で、GPUとFPGAは異なる役割を担い、互いの弱みを補いながら組み合わされていきます。自動運転の安全性は、この計算パイプラインの遅延と安定性に大きく依存します。その意味で、GPUとFPGAの選択は単なる部品選びではなく、「車がどのように世界を理解し、どれだけ確実に反応できるのか」という問いに関わるものです。今後のSDV化と統合ECU化により、両者の統合がより密接に進むことはほぼ確実です。本稿が、車載計算アーキテクチャを読み解くための基盤となれば幸いです。

〆最後に〆

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