読み貯めしておいた新聞を拝見して一筆。2025年6月15日の日経新聞を起点に議論を始めます。議題は「AIの進化論(脅威論)」。人工知能の性能が急激に高まり、人間の知能を超えると思われる昨今、多くの専門家はAIの暴走に警鐘を鳴らしています。しかし、米国メタのチーフAIサイエンティスト、ヤン氏(Yann LeCun)は異なる視点を提唱しています。彼は、『Llama』を開発した主要メンバーのひとりで、私も日常的にその技術を使っているだけに、親近感がわきます。
ヤン氏は「人間が高度なAIを制御しうる」と信じ、人とAIの共存を力強く唱えています。筆者コウジもその考えに賛同しますし、自身でAIエージェントを作って熱中する中で、「危惧論」はむしろナンセンスに思えるのです。
その対比として注目されるのが、2024年ノーベル物理学賞受賞者で、トロント大学のジェフリー・ヒントン(Geoffrey Hinton)氏。AI界の巨頭として知られるヒントン氏は、ヤン氏とは真逆ともいえる「暴走・制御不能」の危機を強く唱えています。
ヒントン氏との意見の相違は、過去数年で顕著になっています。ヤン氏は大規模言語モデルが冗談を理解し始めるなど「知性の兆し」を見せている現在、一歩進めて「進化を過大評価している」と懸念します。この論争、バイアスによる「脅威論」一辺倒の論調に新たな視点を投じるきっかけになる—そんな予感がしています。
大規模言語モデルの限界と可能性
ヤン氏は「大規模言語モデルは既存のデータを基に正解率の高い回答を導き出すもの。未知の解決策を導き出すことはできない」と指摘しています。一方で私は、「人間が設計した高分子モデルなどを用いてAIエージェントが思考すれば、未知の領域に踏み込んで新たな解を複数導ける」可能性を感じます。実際、研究では物理や化学の設計空間探索にAIが人手では難しい発見をしている例が報告されています(例:材料設計、分子構築など)。
=議論の余地が残るテーマです。
新基盤モデルの必要性
ヤン氏は「人間並みの知能に到達するには、既存の大規模言語モデルの延長では足りない。新しい基盤モデルが必要」と主張。五感を通じた世界理解や物理世界との相互作用をAIに構築する試みこそが、次の課題だとしています。これは、人間の乳幼児が感覚刺激と行動を通じ知能を獲得する過程に似ています。このアプローチはSymbolic+感覚情報結合型モデルなどの新潮流とも合致する可能性があるでしょう。
ヒントン氏との対立構図
ジェフリー・ヒントン氏(2024年ノーベル物理学賞受賞)は、AGIの到来が30年も早まったかもしれないと警戒し、「暴走・支配」の可能性を繰り返し警告しています。対してヤン氏は「使い方次第で制御は可能」「前触れなく支配する未来説はクレイジー」と断言し、安全性設計に注力すべきと説きますreddit.com+2linkedin.com+2youtube.com+2。
開放型 vs 秘密主義の開発スタンス
ヤン氏は「オープンソース/コミュニティ型のAI開発こそが最終的に勝利する」と断言しています。たとえばDeepSeek(中国)は、MITライセンス公開やコミュニティ参加型モデルとして注目度が高く(R1はiOSアプリで1位、安価な開発費で注目を集めました)forbes.com+10businessinsider.com+10en.wikipedia.org+10。ただし、その反面、政治的検閲や個人情報扱いなど様々なリスクも指摘されています。ヤン氏はむしろこうした開かれた環境に「健全な多様性と透明性」を見いだし、人類全体の利益につながると見ています。
偏見・安全性・民主主義的視座
ヤン氏は「偏見ゼロのAIはありえない」とし、多文化・多様な価値観を反映する設計の重要性を説きます。また、技術の悪用リスクは使い方次第とし、特にサイバー攻撃領域では「防御に先んじるべき」と提言。これは民主主義社会における「多様性」と「自由」が技術基盤に反映されるべきという信念表明でもあります。
研究支援&圧力—政治とCEOの視点
ヤン氏は米国トランプ政権による研究支援削減と研究内容への圧力を憂慮しています。メタのザッカーバーグ氏のように人を惹きつけるリーダーシップの重要性を指摘し、「軍事パレードではなく、人材と起業を支える環境が必要」と語ります。ヤン氏自身、「自分がCEOでなくてよかった」と語り、企業にしかない重責とジレンマを示唆しています。
今後の進展—ヤン氏とヒントン氏の対話
ヤン氏とヒントン氏は、どちらもAIの未来を信じ、自らの信念に基づく議論を続けています。ここにこそ科学技術の“対話と進化”のダイナミズムが存在します。過去の物理学史におけるボーア vs アインシュタインのように、彼らの論争と共著主体の議論が、次世代AIの基盤を形成していくことでしょう。
結び
AI論争は単なる「脅威論対最適化論」では収まらない。そこには、新基盤モデル、安全性観、多様性への視座、そして民主主義と研究開放の価値観までが詰まっています。今後の議論から目が離せません。
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