20年以上にわたり、「ググる(Googleする)」という言葉は人々の検索行動そのものを象徴してきました。誰かに「それ、ググってみたら?」と言えば、それだけで「インターネットで調べる」ことが通じる。そんな時代を築いたのが、米グーグルの検索エンジンです。
しかし、今そのグーグルに対して、日本の公正取引委員会(公取委)が重大な動きを見せました。検索市場での独占的な地位を背景に、スマートフォンメーカーとの間で不公正な取引を行っていたとして、独占禁止法違反に基づく排除措置命令を初めて出す方針を固めたのです。背景には、検索という行為そのものが生成AIの登場によって大きく変容しているという技術的な潮流もあります。
これは単なる1企業に対する行政処分ではありません。長年築かれてきた「検索文化」そのものに対して、制度的にも技術的にも再構築の動きが始まっているのです。
グーグルの功績:「検索する」という行為を文化にした20年
「ググる」が日常語になった背景には、グーグルが1990年代後半から提供してきたシンプルで高速な検索体験があります。目的の情報を「キーワードで探す」というユーザー体験(UX)は、Yahoo! やAltavistaといった当時のライバルを凌駕し、世界的なスタンダードとなりました。
これにより、インターネットは専門家や一部の技術者だけのものでなく、誰もが自由に知識にアクセスできる空間へと進化しました。そして検索結果ページに表示される広告を通じて、グーグルは巨大な広告収益を得る仕組みを構築。それが、今日の「検索を基盤とした経済圏」の始まりでした。
その結果、検索から集客し、成果報酬型で収益を得る「アフィリエイト」や、特定のキーワードで上位表示を狙う「SEO(検索エンジン最適化)」産業が勃興。比較サイトやレビューサイトも、この検索文化の恩恵を受けて成長してきました。まさにグーグルは、インターネットのエコシステム全体を設計し直した存在だったのです。
日本公正取引委員会の判断:競争制限にメス
そんなグーグルに対し、日本の公正取引委員会はついに法的措置に動きました。問題視されたのは、グーグルがAndroid端末メーカーに対して、自社製の検索アプリやChromeブラウザをホーム画面に初期搭載させる契約を義務づけていた点です。
加えて、Google Playの使用を許可する見返りに、グーグル検索を標準設定することを求めたり、検索広告の収益を一部分配する代わりに他社検索サービスの採用を控えるよう圧力をかけるなど、公取委はこれら一連の行為を「不公正な取引方法」と判断しました。
国内でのグーグル検索のシェアは約8割、世界では約9割に達するなか、こうした契約行為が競争環境をゆがめていると見て、今回の排除措置命令の準備に至ったとされます。
欧米での圧力:提訴と巨額制裁金
日本の対応は、すでに動いている欧米当局の対応とも呼応しています。欧州連合(EU)の欧州委員会は2018年、グーグルが検索とブラウザを不当に抱き合わせたとして、43億ユーロ(約7000億円)にのぼる制裁金を科しました。
また、米国司法省は2020年にグーグルを反トラスト法違反で提訴し、2024年には同社の契約構造が市場の独占を助長しているとの判断を下しています。グーグルは12月に改善案を提出しましたが、検索やChrome部門の分割といった根本的な是正案には踏み込まず、批判が続いています。
生成AIと「ポスト検索時代」の到来
そして、検索市場自体もかつてない変革期を迎えています。OpenAIのChatGPTや、グーグル自身が開発するGeminiなどの生成AIの登場により、ユーザーの情報探索行動が変わってきているのです。
従来は「キーワードを入力してリンク先を自分で読む」スタイルだったものが、今や「自然言語で質問して、回答を一発で得る」対話型検索に移行しつつあります。
たとえば「おすすめのワイヤレスイヤホンを教えて」と尋ねれば、リンクを並べるのではなく、特徴や価格帯ごとに製品を要約して提示してくれる。この形式では、従来のように記事へ遷移してもらう必要がなくなるため、検索結果上に広告を出す従来型ビジネスは大きな影響を受けるのです。
アフィリエイトとSEO:岐路に立つ検索依存型ビジネス
このような検索体験の変化は、アフィリエイト業界やSEO業者にとって死活問題となり得ます。
これまでのアフィリエイトは「検索結果に表示→クリック→販売サイトへ誘導→成果発生」という流れを前提としてきました。SEO施策も「検索エンジンのアルゴリズムに合わせて記事を調整し、上位表示を目指す」戦略が中心です。
しかし、生成AIが「最初の回答」に信頼性の高い情報のみを要約・提示するようになると、そもそもクリックされる機会が減少し、SEO対策の意義も大きく揺らぎます。
ただし、完全に価値が失われるわけではありません。AIが参照する情報源として、一次情報の提供や専門性のある記事は今後さらに重視されます。たとえば、企業の公式発表、専門家の執筆、政府機関のデータなどはAIが情報を生成する際の中核となるため、信頼性を裏付けるエビデンスとしての価値はむしろ上がるでしょう。
まとめ:検索の文化と経済圏の転換点
「ググる」という行為は、インターネット文化そのものを象徴するものでした。そしてグーグルは、その文化を作り上げただけでなく、経済的にも検索依存型のビジネスエコシステムを育ててきました。
しかし今、規制と技術革新の波によって、その体制に大きな見直しが迫られています。日本の排除措置命令は象徴的な転機であり、グーグル一強体制に一石を投じる動きです。
同時に、AIという新たな技術も、検索を「問いと答え」に変え、情報流通のルールを書き換えようとしています。
アフィリエイト、SEO、コンテンツマーケティング──あらゆる検索依存型のビジネスは、いま再定義の時を迎えています。今後の検索とは何か。検索の未来を問う時代が、いよいよ本格化したといえるでしょう。
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