ラリー・エリソンが描くAIクラウドの覇道 【 オラクル復活とスターゲート戦略】

第1章　ラリー・エリソンという人間 ― 苦難と闘争の人生

アップルの取締役であり、オラクルの創業者ラリー・エリソン会長（81歳）の人となりを考えます。古豪オラクルを復活させ、SBGの孫正義氏らが進める「スターゲート計画」にも参加しています。人工知能（AI)ブームをとらえて、祖業のデータベースからクラウド事業へと大胆に舵を切りました。

幼少期、エリソンはシカゴの貧困家庭で生まれ、生後すぐに養子に出されます。厳格な養父との確執に苦しみながらも、数学とプログラミングの才能を開花させ、スタンフォード大学を中退してシリコンバレーへ。自らの存在証明を「勝利」で示すようになります。

1977年、データベース管理ソフト「Oracle」を商用化し、オラクル社を設立。その後40年以上にわたり、経営の第一線に立ち続けています。M&A件数は150件、投資総額は1100億ドル。技術と経営を融合させる“闘う経営者”の象徴です。

宿敵はマイクロソフトのビル・ゲーツ。OSによる囲い込み戦略に真っ向から挑み続け、両者の対立はシリコンバレー史の一章を飾りました。一方、アップル創業者スティーブ・ジョブズとは深い友情を育み、ジョブズ亡き後、彼のヨットを造る費用まで支援したと伝えられます（Isaacson, 2011）。

【章まとめ（約200字）】
エリソンは孤独から這い上がり、勝利で存在を証明した人物だ。彼の経営哲学は「競争こそ創造の母」であり、敵を作ることで組織を成長させた。だがその裏には、家庭に恵まれなかった幼少期の“承認欲求”が影を落としている。AIの時代にあっても、人の情熱が産業を動かすことを彼は体現している。

第2章　スターゲート計画とAIクラウド ― オラクルの逆襲

そんなオラクルが近年のAIブームをとらえて、元祖サーバー企業として「スターゲート計画」に加わりました。OpenAI・ソフトバンク・オラクルが共同で進める総額5000億ドル規模のAIインフラ投資構想で、2025年初頭にホワイトハウスで発表されました（Financial Times, 2025）。

この計画の技術的中核は、AIモデルの学習と推論に必要な膨大な演算能力の確保です。オラクルはテキサス州アビリーン、ミシガンなど全米で超大型データセンターを建設中。OpenAIは4.5ギガワット規模の電力供給契約を結んでおり、米国数百万世帯分に匹敵します。

オラクルの強みは、GPU数ではなく通信設計にあります。RDMAやRoCEを駆使し、GPU間のレイテンシを減らす「速いAIクラウド」を構築。既存の基幹データベースとの連携を重視し、アプリ改修なしでAI活用を可能にする点で他社と一線を画します。

【章まとめ（約200字）】
スターゲート計画は、AI時代のインフラ再編を象徴する動きだ。オラクルは“速度”と“効率”で勝負し、後発ながら独自の地位を築こうとしている。データベース企業からAIクラウド企業へ――それはラリー・エリソンの第二の挑戦である。

第3章　競合の思惑 ― クラウド戦争の新局面

オラクルに対抗するのは、アマゾン、マイクロソフト、グーグルの3巨頭です。市場シェアで見ると、AWSが約32％、Azureが25％、GCPが10％、オラクルは3％台に留まります（Synergy Research, 2025）。

アマゾンは依然として市場最大手ですが、AI対応の遅れが指摘されます。マイクロソフトはOpenAIとの提携を活かして急伸。グーグルは独自AIモデル「Gemini」で勝負しています。そして、GPU特化型クラウド「CoreWeave」も台頭しつつあります。

オラクルはこの中で、AI特化型の差別化戦略を採用。自社AIを作らず、あくまで“他社を支えるインフラ企業”として存在感を高めています。まさにAI時代の「縁の下の力持ち」。

【章まとめ（約200字）】
クラウド戦争の主役は、もはや単なるサーバー企業ではない。AI学習、電力供給、通信効率――そのすべてを制する者が次代の覇者となる。オラクルは後発ながらも、最も戦略的な位置に立ちつつある。